同通レシーバーの民主化 Auracast を試してみた
ども、大瀧です。
大規模なカンファレンスイベントでは、同時通訳や複数セッション聴講のために専用のイヤホンレシーバーを配布することがあります。これがあと数年したら、参加者が普段Web会議や音楽視聴に使う私物のBluetoothイヤホンに置き換わるかもしれません。それを可能にする技術がAuracastです。本ブログでは、Auracastに対応するNEXUM VOCEとnwm DOTSを用いて、Auracastによる音声ストリーミングを実際に試してみた様子をレポートします。
Auracastの概要
AuracastはBluetooth 5.2のLE Audioから独立した機能で、1つのデバイスの音源を複数のデバイスにブロードキャストでストリーミング配信する仕組みです。
画像参照元URL: https://www.bluetooth.com/auracast/how-it-works/
Auracastを利用するためには、以下のデバイスを用意します。
- Auracast Transmitter: 送信機として音声をブロードキャスト(同報)します
- Auracast Receiver: 受信機としてTransmitterのストリームから送信される音声を再生します
- Auracast Assistant: Receiverが受信するストリームの切り替えなど受信機を操作します
1台のTransmitterから多数のReceiverに音声を送るイメージです。Assistantのスキャン機能を内包するReceiverの場合はAssistantなしで利用でき(以下ドキュメントに記載あり)、今回使用するNEXUM VOCE、nwm DOTSのいずれもAssistantなしでReceiverとして使用できました。
How to Design Auracast™ Earbuds | Bluetooth® Technology Website
→ 5.0 Working With Auracast™ Assistants
他のデバイスは、AuracastのWebサイトで機種リストから参照できます。
申請ベースのリストのようで、nwm製品のうちDOTSの記載はありませんでした。
NEXUM VOCEをAuracast Transmitterとして動作させる
NEXUM VOCEはマイク、オーディオ端子とバッテリーを備える本体とUSBドングルがあり、Amazon.co.jpでは1個ずつがセットになったパックとして購入できます。
自分はBLACK FRIDAYセールで1万円強で購入できました(恐らくまた安くなるタイミングがあることでしょう)。VOCEの面白いところは本体だけでなくUSBドングルもAuracastデバイスとしてほぼ同等の機能を備えており、ボタンやスイッチで切り替えることでAuracast TransmitterとAuracast Receiverの両方として動作できます。今回のようにいろいろなAuracastの構成を試すのにうってつけな、遊べるデバイスですね(にっこり)。
Transmitterとしての最もシンプルな構成は、本体から内蔵マイクで拾った音声をブロードキャストします。本体横のスイッチを「TX(送信)」にセットします。
中央のボタンを長押しして電源オン、続けてボタンを3回押すとブロードキャストモード(初期モードはBluetoothのペアリングモード)に切り替わり、LEDが紫に点滅します。
これでOKです。このほか本体のステレオミニ端子、USB Type-C端子で外部デバイスの音声をブロードキャストすることも出来ます。
nwm DOTSをAuracast Receiverとして動作させる
nwm DOTSはオープンイヤーのいわゆる耳掛けタイプのTWE(True Wireless Earphone)です。特徴的な丸いタッチセンサーにジェスチャー機能があります。
Auracast Receiverとしてはストリーミングモードというモードで動作させます。耳に装着して左右どちらかのセンサー5秒タッチで2回のタッチ音の後「モワモワー」という切り替えサウンドが流れてストリーミングモードに切り替わります。ストリーミングモードでは、近くのAuracastストリームをサーチしそのストリームの音声を流します。先ほどセットしたNEXUM VOCEのマイク音が早速聞こえてきました。ほぼ遅延無く明瞭に聞こえますね、良い感じです。一方で音が小さいので音量を大きくしようとしたのですが、タッチジェスチャーの音量アップ(左1回タッチのあと長押し)はストリーミングモードでは動作しませんでした。
複数のAuracast Receiverに配信する
Auracastはブロードキャストなので、Receiverをどんどん増やして同じ音声を複数のReceiverに配信できます。今度はNEXUM VOCEのUSBドングルをAndroidタブレットにセットし、Auracast TransmitterとしてYoutube動画の音声をブロードキャストしてみます。
VOCEのUSBドングルは本体と同様ボタンの3回クリックでLEDが紫点滅し、ブロードキャストモードになります。
さきほどと同様にnwm DOTSをストリーミングモードで動作させるとYoutubeの音声が聞こえてきました。続いてVOCE本体のスイッチを「RX」に切り替えてステレオミニ端子に別のヘッドホンをセット、電源オンにしボタンの3回クリックでAuracast Receiverとして動作させます。
こちらでもYoutubeの音声がきちんと聞こえてきました!
(予告)複数のAuracast Transmitterを切り替える
nwm DOTSはスキャンして複数のストリームを検知する場合、最も強いストリームの音声を再生します。上手く使うとイベントの同じ会場で複数のセッションを聞き分けるために利用できそうです。NEXUM VOCEの本体とUSBドングルの両方をTransmitterにして実験して、また別のブログ記事でレポートしたいです。
(余談)Auracast Assistantは?
今回検証した構成にはAssistantが含まれていませんが、複数ストリームを選択したりReceiverの音量を制御したりとAuracast Assistantを組み合わせることでAuracastを実用的に利用できそうです。AssistantはAuracast Webサイトの機種リストには、いくつかのAndroidスマートフォンが見受けられます。例えばSony Xperia 1 VIのマニュアルには「ブロードキャスト」という機能でAuracast Assistantの設定手順の記載があります。
まとめ
Auracastを実機で試してみた様子をご紹介しました。検証した範囲では、極めてシンプルな設定と安定したクリアな音声を視聴でき、良いユーザー経験ができました。
規格として台数無制限とある一方でカンファレンスイベントの規模に見合うスケール性が保てるのか、どれくらいのデバイスがAuracastをサポートするのかはまだ未知数ですね。この手の新しめの技術に前のめりに取り組むのことの多いAppleさんからAuracastの話題が全く聞こえて来ないのが残念であり、公共の場でメリットの多い仕組みの割には空港などでの実証実験の話題も探した限りでは見つけられませんでした😅 デバイス業界の標準化団体(Bluetooth SIG)が主導する"らしさ"の一面と言えばらしさなのですが、至るところで使えるようになるために果たして何年かかるのか不安ではあります。
ちなみにクラスメソッドの東京(日比谷)オフィスには200名規模のイベントスペースがあり、↓のような自社主催/協賛のIT技術カンファレンスを度々行っているので、デバイスを提供するから検証してみたいというデバイスベンダーさんはご相談ください😊